




農の風景にひらく、大きな軒下
横浜市高田町に計画された、都市農家による農家レストランである。
この地域では、住宅地と農地が近接し、生産者が消費者のすぐそばで農を営んでいる。
都市のなかにありながら、食べることと育てることの距離がまだ失われていない場所である。
一方で、農用地区域における飲食施設の整備には多くの制約がある。
本計画は、横浜市による農業振興地域制度の見直しを契機に、農業の振興に資する施設として位置づけられることで実現へと向かった。
横浜市では前例がなく、行政との協議を重ねながら、計画は少しずつかたちづくられていった。
道路幅員から駐車場の出入口が定まり、隣地の農作物への日照を確保するために、建物の配置や屋根のあり方も導かれていく。
ここでは建築のかたちが、制度、農地、道路、光、周囲の生活環境との対話の積み重ねによって獲得されている。
建築は、地域の風景のなかで静かに記憶に残る姿を目指した。
深く張り出した寄棟の大屋根は、ハイサイドライトによってわずかに浮かび上がり、その下に大きな軒下空間をつくり出す。
そこは、農家の家庭料理を味わう民家のようでもあり、誰もが気軽に集う公民館のようでもあり、畑に向かって開かれた室内の広場のようでもある。
客席は大きなガラス越しに畑へと開かれ、季節とともに移ろう作物の風景と、その向こうに広がる空を室内に取り込む。
食事をする時間の背後に、土を耕し、育て、収穫する時間が重なって見えてくる。
育てることと食べること、生産する人とそれを味わう人、都市と農地、それらが地続きであることを、ひとつの風景として結び直すこと。
都市のなかに残る農の循環を、身体的に感じられる場所となることを目指している。
構造 株式会社 谷口建築事務所
施工 株式会社 Intake
photo 山内紀人